壁面緑化のメリットとは。壁面緑化を取り入れた施設事例を紹介

インフラ整備、とりわけ建物の建築にともない、論点になるのが緑化や緑地保全です。利便性を追求する一方で、いかにして緑を残すかは日本だけではなく海外でも関係者の頭を悩ませています。 都市部において緑を効率的に増やす施策のひとつが、壁面緑化です。ここでは壁面緑化によって期待できるメリット、壁面緑化に関する各自治体の取り組み、壁面緑化が施されている施設を紹介します。

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壁面緑化で得られる4つのメリット

壁面緑化とは、建物の壁をツタなどの植物で覆うスタイルのことです。植物を壁面に這わせる方法は複数あります。たとえば植物が壁面に沿って成長するように壁際で育てたり、上階の窓などに設置したプランターから地面へ向かって垂らしたりなどです。

壁面緑化は建物のデザイン性を高める目的のほか、ヒートアイランド現象の緩和効果を期待して取り入れられることもあります。都市部の気温が郊外よりも高くなる現象が、いわゆるヒートアイランド現象です。壁面緑化によって建物の表面温度を低下できることから、ヒートアイランド現象の緩和につながるとされています。

省エネルギー化

壁面緑化は、室内の温度環境を快適にする効果も期待できます。冷暖房の稼働を最小限に抑えられるため、省エネルギー化を実現可能です。環境に配慮しつつ、コスト節約もできます。

大気の浄化作用

大気の浄化作用があることも、壁面緑化のメリットのひとつです。壁面を覆う植物の光合成にともない、空気の入れ替えが行われます。都市部の建物に壁面緑化を取り入れれば、植物による大気の浄化作用は期待できます。

建物そのものの保護

建物を長期的に使用するためには、定期的なメンテナンスが必要不可欠です。外壁もメンテナンスが欠かせない部分ですが、壁面緑化を利用することで劣化を軽減できます。壁面を覆う植物は、建物への直射日光を遮り、紫外線や風雨から建物を保護してくれます。

ただし、建物への保護効果を期待するのであれば、設置方法に注意しなくてはなりません。植物が直接壁面に張り付いている状態は、かえって建物を傷つけるおそれがあります。ワイヤーやネットを使用して、壁面には直接触れないように設置することが重要です。

ストレス緩和

視覚効果に加えて、植物との触れ合いはストレス緩和効果も期待できます。森林総研の調査では、視覚情報のみでもある程度のリラックス効果があることが確認されました。

スクリーンに投影したデジタル画像と現地それぞれの調査により、実物の森林浴には若干劣りつつも、デジタル森林浴でもリラックス効果があることが明らかになっています。

日常生活の中で植物を身近に感じられる壁面緑化も、同じくリラックス効果によるストレス緩和を期待できると考えられます。

シンガポールのNTU(南洋理工大学)の研究でも、壁面緑化がメンタルヘルスに与える影響として、ストレス緩和効果が挙げられています。

NTUで行われたのは、VRを利用して被験者に「植物のある通り」と「壁が緑色の建物が並ぶ通り」を歩いてもらう実験です。

心拍数とアンケートの両方で調査した結果、植物のある通りは大きな変化がなかったのに対して、緑色の建物が並ぶ通りを歩いた被験者は、高いストレスを感じていました。

このように、壁面緑化による視覚的効果は、国内外で注目されています。緑視率とリラックス度の相関関係についての研究は数多く行われており、シンガポールの例のようにVRが活用されることも少なくありません。

たとえば弊社の「ToPolog」は、VRを使用しつつ視線や脳波などを測定することで、人が無自覚のまま抱くリラックスやストレスなどを定量化できるソリューションです。

壁面緑化が与えるストレス緩和効果も「ToPolog」を使用すれば、ユーザーが効果的にリラックスできる緑の配置やバランスを明確な数値として割り出せるようになります。

壁面緑化は各自治体で推進されている

日本国内において、行政レベルで壁面緑化は高い注目を集めています。自治体が壁面をはじめ建物の緑化を推進するために義務化する制度を定めていたり、導入費用の助成制度を設けていたりする地域も少なくありません。

壁面緑化を義務化している制度

壁面緑化を義務化する制度(屋上緑化も含む)で、普及を推進している地域の例として、東京や埼玉、京都、大阪、兵庫などがあげられます。5都府県の中から、ここでは東京と京都それぞれにおける条例を紹介します。

東京における自然の保護と回復に関する条例

東京では「東京における自然の保護と回復に関する条例」に基づき、各区で一定以上の敷地面積を有する建物の新築時は、緑化計画書の届出が義務付けられています。敷地面積から建築面積分を差し引いた面積のうち、原則2割以上を緑化しなくてはなりません。 

ただし細かな数値や条件は区ごとに異なる場合があるため、事前確認が必要です。たとえば江東区では、緑化の基準を次のように定めています。

・地上部で敷地の概ね10~20%以上

・建物上で敷地の12%または16%以上 

区によっては、屋上や地上部のほかに接道部まで細かく定めている場合もあります。

京都府地球温暖化対策条例

京都では「京都府地球温暖化対策条例」の第2章第4節にて、「緑化の推進による地球温暖化対策」を定めています。特定緑化地域に指定された地域での新築・改築時は、規定に沿った緑化と届出を行うことを義務付ける内容です。

敷地面積1,000m2以上の新築・改築を対象としており、利用可能な屋上面積の20%以上と敷地面積の空地の15%以上を緑地化することが求められています。京都の条例では、太陽光発電パネルの設置面積(水平投影面積)も範囲と見なされるのが特徴です。 

壁面緑化に係る費用の助成制度

壁面緑化の実践には、相応のコストが発生します。各自治体では壁面緑化を推進するために助成制度を設けており、活用すれば初期費用を多少抑えるでしょう。

助成制度の例として「建築物緑化助成事業」「屋上緑化等助成事業」のふたつを紹介します。

建築物緑化助成事業

地域内の緑化重点地区内または同区域隣接地において、建物の屋上やベランダ、壁面に緑化を施す個人や事業者が対象となる助成事業です。

緑化する場所ごとに明確な規定があり、壁面の場合は次のふたつの条件が設けられています。

・植栽延長が建築物の壁面に沿って3m以上あること

・多年生のツル性植物を植栽延長1mあたり3本以上植栽すること 

上記は、宮城県仙台市の例です。自治体によって名称や条件が多少異なる場合もあるため、事前に細かな内容を確認して施工計画を立てましょう。

屋上緑化等助成事業

神奈川県川崎市では、前述の建築物緑化助成事業と同等の制度として「屋上緑化等助成事業」を行っています。屋上や壁面に緑化を施す個人や事業主に対して経費の一部を助成するものです。これまで屋上緑化149件、壁面緑化10件の助成実績があります。

・建物や工作物の壁面で公共性があると認められる場所

・幅5m以上または3㎡以上の緑化に対して費用の2分の1を助成

・植栽延長1mまたは1㎡あたり1万円以内(総額50万円以内) 

川崎市が設けている条件は、上記のとおりです。緑化推進重点地区かつリサイクル材を使用した場合は助成金が2割増しとなるなど、協力的な個人や事業者は、よりメリットが得られる仕組みとなっています。

壁面緑化を取り入れた施設例

壁面緑化は商業施設や公共施設など、さまざまな分野で取り入れられています。ここでは弊社がプロジェクトに関わった企業や、パートナー企業の緑化事例を紹介します。

大阪梅田ツインタワーズ・サウス

大阪梅田ツインタワーズ・サウスでは、「梅一グリーンプロジェクト」の一環として壁面や屋上ガーデンに植栽を行っています。一般社団法人梅田1丁目エリアマネジメントと阪神園芸株式会社が中心となり、複数の教育機関とともに地域全体の都市緑化を手掛けるプロジェクトです。

大阪梅田ツインタワーズ・サウスの緑化の特徴は、室内(WELLCOエントランス壁面)にデオファクターグリーンを取り入れている点です。デオファクターグリーンとは持続的な抗ウイルス・制菌・防カビ効果が期待できるフェイクグリーンで、良好な空気環境を維持してくれます。 

東京スクエアガーデン

東京スクエアガーデンは、5階から地下1階にかけて、段差を利用した植栽で緑化を施しています。総面積3,473㎡におよぶ緑化は、約140種の樹種を織り交ぜることによって季節感の演出効果もあります。

直線の多い建物の立ち上がりは、硬い印象を与えかねません。徹底的な緑化を施すことでユーザーにどのような印象を与えるか、現在はVRによる視覚的影響の実験を行っています。 

熊本城ホール・熊本駅

熊本城ホール・熊本駅の緑化は、近隣の熊本城の景観や公園、緑地などに与える影響も考慮したデザインとなっています。地上30mの屋上庭園に加えて、屋内壁面に緑化を施すことで、バイオフィリック・デザインを実現しました。

バイオフィリック・デザインとは、空間デザインに自然を取り入れ、過ごす人の生産性や幸福感を向上させる手法のことです。自然や生命をさす「バイオ」に愛好や趣味をさす「フィリア」を加えた造語で、建物に緑を取り入れるほか、屋外で過ごすことも含まれます。

熊本城ホール・熊本駅の緑化によるユーザーへの影響も、弊社にて今後VR調査を行う予定です。 

まとめ

壁面緑化は、大気浄化や室内環境の快適化など、さまざまな効果が期待できます。緑を取り入れた外観そのものをデザインとして楽しめる点もメリットのひとつです。

日本国内においても、各自治体が壁面緑化や屋上緑化を推進していることから、今後ますます多くの建物に取り入れられていくと考えられます。