地震を体験させる「VR地震」の建築領域における活用方法とは?

平成の31年間で全国1741自治体のうち、震度2以下しか記録されなかったのはわずか12町村のみでした。残りの地域は震度3以上の揺れを経験しており、更に一部の自治体は、震度7を超えた巨大地震に見舞われています。 平成の31年間で発生した巨大地震は、阪神淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震の計5回です。また、いずれ巨大地震が発生すると囁かれている地域は複数あり、建築領域においても防災に考慮した製品やサービスの開発が求められています。 そこで本記事では、建築領域においてVR地震を取り入れる意義や、実際の活用方法を解説します。

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VR地震の意義は「地震を体験させること」

 

VR地震とは、実際の室内や路上などの風景を取り込み、地震が発生した場合の風景の変化をVR映像として見せるものです。住宅であれば、地震によって家具が大きく揺れたり家電が横転したりと、身近に潜む危険を視覚的に知ることができます。

従来の地震を体験する製品で有名なものといえば、トラックの荷台部分を利用した疑似体験装置「起震車」でしょう。起震車は、トラックの荷台部分に振動装置と簡易的な小部屋を設置した、地震の疑似体験を目的とした車両です。地震体験車の名でも知られています。

小部屋部分にはテーブルとイス、棚が設置されており、体験者は椅子に座った状態で地震を体験します。近年は実際の地震を参考とした上下運動以外の揺れを体験できるものや、高層階特有の揺れを再現するものなど、起震車の種類もさまざまです。

いずれの起震車も、対処法を学ぶことよりも地震そのものを体験させることに重きを置いています。VR地震もリアリティのある映像を視聴することで、まずは地震がどのようなものか体験させることを目的としています。

地震大国とはいえ、起震車で再現するような巨大地震が毎月のように発生しているわけではありません。過去に巨大地震を体験したことのない層の防災意識を醸成させるためには、地震そのものを体験してもらう方法が効果的です。

また、いざ大きな地震に被災したとき、混乱せず適切な行動をとれるようにするためにも、地震を一度体験しておく必要があります。

起震車またはVR地震のみでもリアリティのある疑似体験をすることは可能ですが、近年はより没入感の高い方法も注目を集めています。2020年、練馬区で起震車とVR映像を組み合わせた「VR地震体験システム」が採用されました。

起震車による実際の揺れに、VRのリアルな映像を組み合わせ、「巨大地震が発生すると周囲の様子はどのように変化するか」を体験できる仕組みです。VR映像はキッチン・ダイニング、学校の教室、屋外と3種類用意されており、シーンごとに異なる疑似体験ができます。

【企業向け】VR地震の具体的な活用方法

VR地震は、自治体が住民の防災意識を醸成させるほかにも、さまざまな目的で活用できます。ここでは、VR地震を活用することで不動産会社、設計者が得られるメリットについて解説します。

【不動産向け】マンション・住宅の魅力付けを行う

VR地震は、不動産会社のマーケティングにも役立ちます。マンションや戸建て住宅の売買に活用することで、取り扱い物件の効果的な魅力付けにつながります。

不動産向けにVR地震を活用できるシーンは、次の2種類です。

不動産の売買に活用する

VR地震を不動産の売買に活用する場合、商業施設ではなくタワーマンションや戸建て住宅など個人向け物件で利用されるケースがほとんどです。とくに建物の中で長時間過ごすユーザーがターゲットとされており、免震耐性などの機能性による価値の違いを示すときにVR地震が役立っています。

似たような立地や専有面積、設備であれば、多くのユーザーが選ぶのは、より価値が高いほうの物件でしょう。VR地震で表面的なデザイン部分だけではなく、多角的に物件の価値を伝えられるため、マンションや住宅の契約につながりやすくなります。

入居者向けの防災啓蒙に取り組む

学校やオフィスだけではなく、商業施設やマンションなども消防法によって年1回以上の防災訓練実施が義務付けられています。しかし多くの居住者に特定の日時に参加してもらうことは、容易ではありません。

そこで役立つのが、VR地震を活用した臨場感のある防災訓練です。ごく一般的な防災訓練では軽視されやすく参加者が集まらないという物件も、VR地震を活用した防災訓練を行えば、多くの居住者の興味関心を引くことができるでしょう。

防災訓練の実施日に、エントランスなどにVR地震の体験コーナーを設置します。リアリティのある映像で、地震が起きたときのマンションの様子を疑似体験してもらうことで、効果的な防災啓蒙が可能です。

また、VR体験による防災訓練はオフィスでも実施できます。災害を疑似体験してもらい、避難経路を検討してもらうだけではなく、VR地震の映像で免震性や避難しやすい経路など、自社建物の魅力を伝えられます。

競合となる建物が近隣に存在する場合、入居している企業が他のオフィスへの勧誘を受けている可能性は少なくないでしょう。防災啓蒙活動への注力ぶりや設計面の強みなど、自社建物の魅力を伝えることは、空室対策の一環にもなります。

【設計者向け】免震・耐震の効果を示す

設計者がVR地震を活用できるシーンのひとつが、免震・耐震の効果をクライアントに説明するときです。免震ダンパーと制震ゴムのどちらを入れるのか、素材は何を選ぶのかで、コストは大きく変動します。

不動産会社などのエンドユーザーが、免震ダンパーと制震ゴムの違いや価値を実感できるとは限りません。そのため、地震対策ごとの効果の違いを断面図のみで説明するのは、不十分です。

そこで、実際の建物を仮想空間に再現し、体験してもらうことで、断面図からは読み取れない施工内容の違いを理解してもらえます。たとえば本棚は倒れるのか倒れないのか、といった情報は、VR映像で体験してもらったほうが機能性の差を実感しやすいものです。

視覚的に情報共有できれば、クライアントとの認識に齟齬が生まれる心配もありません。検討できる材料を提供することで、設計の合意形成を図ることもできます。

VR地震は『危険要素の把握・改善』への活用が必要

 

設計者にとって、VR地震が真価を発揮するシーンは、危険要素の把握・改善を目的としたときです。地震のリアリティあふれる体験のみで終わってしまうのではなく、VR映像を体験したユーザーの行動を定量化して記録することが求められます。

地震発生時のユーザーの行動変化を知るためには、VR地震のように実際の災害をイメージしやすい要素が必要です。避難経路をデータ化するだけではなく、VR空間の中で危険を感じている箇所の補修を体験することもできます。

災害発生時のユーザーの行動変化を収集している例は、いくつか存在します。たとえば白山工業の「地震ザブトン」を活用すると、屋内で気軽に起震車のような地震体験が可能です。地震ザブトンとVR映像を組み合わせて災害を疑似体験させることで、ユーザーの防災意識を醸成できます。

ほかにも、白山工業ではWeb上に埋め込んだシミュレーション動画の閲覧データからユーザーの視線情報を分析しています。揺れる前後の状態や、強い揺れが発生したときなど複数のシーンなど、時間軸で切ってデータを取得する仕組みです。

たとえば揺れている最中は視点が中央に狭まっていたユーザーが、揺れが収まった後は被害状況を確認しているなど、細かな部分の違いにも気づきます。

このようにVR地震の体験からユーザーの視線情報や行動変化を取得・分析している企業はごく一部で、VR地震を体験のみで終えているケースがほとんどです。弊社のToPologなら、VR体験によって得た定量的なデータを、空間デザインの改善につなげることができます。

まとめ 

VR映像を活用すれば、地震をはじめとした多くの災害をユーザーに疑似体験してもらうことができます。マンション居住者の防災意識を高めるだけではなく、自社建物の免震性など機能的な魅力を伝えるときにも役立つツールです。

リアリティのある映像は、不動産売買や設計時の合意形成にも活用できます。地震の映像以外にも、さまざまな災害を想定したVR映像による避難訓練や空間デザインの改善も可能です。

防災意識の高さを自社建物のセールスポイントとしたい不動産会社や、危険要素を把握・改善したい設計者も、VR地震でユーザーへ視覚的に訴えてみてはいかがでしょうか。