従来と何が変化するのか。メタバース住宅展示場の特徴と活用事例とは

近年、さまざまな業界で注目を集めているのが、メタバースです。インターネットを介した3次元空間上でユーザー同士がコミュニケーションを取ったり、同じイベントを体験したりと、商業的にも多くの可能性を秘めています。 仮想空間というと、これまで浸透していた技術としてVRもあげられます。メタバースとVRの違いが曖昧という方も多いのではないでしょうか。 今回は、メタバースとVRの違いや、各技術が建設業(特に住宅展示場)でどのように活用されているのか解説します。

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従来からVRを用いた住宅展示場は活用されてきた

メタバースとVRはどちらも仮想空間を体験できる点が共通しており、混同されるケースが少なくありません。大きな違いは、仮想空間が「体験できる技術」を指すのか、「空間そのもの」を指すのかです。

メタバースは、仮想空間そのものを指す言葉です。オンラインゲームのように複数のユーザーが同じイベントを体験できる空間や、現実のように交流できる環境自体がメタバースと呼ばれます。

VRは、リアルに近い体験を可能にする技術や方法のことを指しています。たとえば新築戸建てを購入するときに、デザイン段階で仮想的な家の中を歩き回って住み心地を試せる技術です。防災教育の場においても、見慣れた光景が地震や台風などでどのように変化するのか、リアルな映像で体験できるプログラムに活用されています。

VRはゲームや音楽業界でコンテンツを楽しむ技術として活用されているだけではなく、建設業界でも住宅展示場など多くの場で利用されてきました。

ここではVRが住宅展示場でどのように役立ってきたのか、活用されている理由を解説します。

時間的・空間的制約を緩和できる

VRが活用される第一の理由は、やはり時間的・空間的制約を緩和できる点にあります。従来の住宅展示場で案内する方法では、前提条件として顧客に会場へ足を運んでもらうことが必要です。

一方、VRであれば時間や場所にとらわれないため、顧客の都合の良いタイミングで自宅や職場などから手軽に内覧してもらえます。「Iターンを計画している」など遠方の顧客からの相談も、VRであれば店舗への来店数を減らすことが可能です。移動時間に縛られることなく、柔軟に打ち合わせスケジュールを立てられます。

仮想空間に作成される建物は、空間的制約を受けにくい点もメリットのひとつです。複数のパターンを作成したり、総床面積の広大な建物をデザインしたりする場合でも、モデルハウス用の土地を用意する必要がありません。

よりリアルな空間体験を提供できる

VRは、3Dのリアル映像を360°見渡せる点も特徴のひとつです。外観の質感やポーチの広さを間近で体感できるのはもちろん、建物内部に入れば、内観も本当にその場にいるような感覚を味わえます。

さまざまな視点から外観と内観を見渡してもらい、全体像をリアルに把握してもらえるのが大きなメリットです。窓の大きさや天井の高さをはじめ、気になるポイントの確認にも役立ちます。

【VRからメタバースへ】住宅展示場に生じる変化

VRにメタバースを組み合わせることにより、従来とは異なるアプローチが可能になります。

住宅展示場の営業にVRおよびメタバースを取り入れた場合、起こり得る変化は次のふたつです。

仮想空間内での案内が可能になる

メタバースで顧客とリアルタイムでのコミュニケーションが取れれば、仮想空間内での案内ができます。

近年はコロナ禍の影響もあり、実際の展示場へ行くことをためらう人は少なくありません。メタバースに住宅展示場を設置した場合、スマホやタブレット、PCなどのデバイスから自由に見学してもらえます。結果として、感染リスクを抑えることにもつながるでしょう。

また、メタバースは空間内で活動する自分の分身、アバターを作成できる点も大きな特徴です。アバターを用いて見学してもらえば、スタッフ役のアバターを介して気軽に質問を受け付けることもできます。

従来の住宅展示場と同じように、双方向のコミュニケーションが可能です。

仮の「住」体験を提供できる

商談が進んだ後のステップにおいても、メタバースは活用の余地が豊富です。プランの確認に活用すれば、距離や時間に縛られずこまかな部分の変更希望にも対応できます。

壁や柱の位置、窓や扉、家具のレイアウトなど、内装やインテリアも含めて遠隔で確認可能です。

そのほか、実際の展示場を体験している顧客にとっても、メタバース上での体験は役立ちます。展示場では見落としていた利便性の違いや不満点などを、メタバース住宅展示場内で発見できることもあります。

メタバースの住宅展示場への活用事例

メタバースに設置した住宅展示場をすでに活用している企業は、複数あげられます。とくに注目されているのは、自由視点と360°画像の発展性です。

ここからは、実際にメタバース住宅展示場を活用している5社の事例を紹介します。

自由視点の事例

自由視点とは、カメラが撮影した映像のように方向が固定されたものではなく、ユーザーが意図的に選択できる視点のことです。メタバース住宅展示場への入場は、誰でも自由視点で体験できるメリットがあります。

自由視点の特性を生かしたサービスを展開している事例として、次の2社があげられます。

大和ハウス

大和ハウスは、2022年4月に業界初のメタバース住宅展示場を公開しました。コロナ禍でオンラインによる接客や住宅販売の需要が高まる中、事業強化を図ることが目的です。

メタバース住宅展示場内では、顧客と接客担当スタッフがアバターとして自由に動け、その場で3Dの住宅モデルを見て回りながらコミュニケーションをとることができます。外観や内観で気になった部分をその場でスタッフに質問できる点や、内部へ実際に入って体験できる点は、従来の住宅展示場と同じです。

複数のユーザーで同時利用できるため、顧客同士で住宅モデルを見ながら会話することもできます。

STUDIO55

大和ハウスのメタバース住宅展示場を開発したのが、VRやCG、BIMを活用したデザインサポートを行っているSTUDIO55です。同社の仮想空間を自由に歩いて見て回れるソフトウェア「shapespark(シェイプスパーク)」を利用して、メタバース住宅展示場は制作されました。

shapesparkの特徴は、専用アプリのダウンロードが不要かつ、PCやスマホ、タブレットなどさまざまなデバイスでメタバースに没入できることです。個別のURLにアクセスするだけで、大和ハウスのメタバース住宅展示場など仮想空間に入り込めます。

デバイスのWEBカメラとアバターを連動させられるため、表情の変化も反映させられます。より現実に近いコミュニケーションがとれる点も、shapesparkの特徴です。

360°画像を発展させた事例

360°画像は、上下左右360°すべてがつながっている画像です。専用カメラで撮影するため、下を向けば地面や床が、上を向けば空や天井が見えます。

360°画像を活用している事例は、次のとおり3社あげられます。

HOUPARK

HOUPARKは、21棟の戸建て分譲プロジェクトで360°画像を活用しました。モデルハウスや街並みの様子を360°画像または動画で作成し、視覚的に情報を伝えながら接客することで、完成後の物件をイメージしやすくしています。

接客担当スタッフも顧客と同じ映像を見ながら説明することで、遠隔地でも伝わりやすい接客を実現しました。完成してから購入を検討したい層へ早期からアプローチでき、第一期販売戸数のうち半数がモデルハウス完成前に完売しています。

野原ホールディングス

野原ホールディングスは、2021年4月よりハウスメーカーなどに対してVR展示場サービスの提供を開始しました。VR上で顧客とコミュニケーションできるセールスボットもオプションでついており、24時間365日接客できるようになります。

VRで住宅展示場を作成することにより、実際の展示場建設や運営にかかっていたコストを削減できる点が大きなメリットです。さらに、ボットの働きで深夜や早朝にも効率的に顧客情報を蓄積できるため、資料請求などのアクションを促せます。

ジブンハウス

ジブンハウス(JIBUN HAUS.)は、同時に複数のアバターがアクセスできるバーチャルモデルハウスを提供しています。アバターは仮想住宅の中や外をそれぞれ自由に動き回れるため、あたかもモデルハウス内で家族と生活しているかのような体験ができます。

バーチャルモデルハウスは外の天気や時間帯を変えたり、コンロの火を付けたりできるうえ、壁紙の色を変えるなど実際の住宅展示場では困難な体験も可能です。家族が実際の生活シーンをイメージしながら仮想空間で過ごすことにより、住宅完成後の満足度向上につながります。

バーチャルモデルハウスによる体験のほか、ジブンハウスとジオクリエイツがToPologを用いて共同で行っている取り組みも、360°画像やメタバース関連事業に大きな影響を与える可能性があります。たとえばモデルハウス見学時にエントランスから順にリビングへ案内する場合と、キッチンを先に見せた場合、どちらが効果的なアプローチなのか、などのデータ取りです。

現在も多くの企業でメタバースやVRによるモデルハウス体験が行われています。中堅層のハウスメーカーを中心に、特に営業担当者がオンライン商談に対して多くのメリットを感じる一方で、その先のビジョンが不明瞭な状態に陥っています。

メタバースで見せるべきところはどこか、接客によるコミュニケーション効果を狙うべき点はどこかなど、オペレーションを構築するには活用可能なデータが少ないのが現状です。

そのため、ジブンハウスとジオクリエイツによるバーチャルモデルハウスを活用したデータ取りは、今後のメタバースや360°画像で応用できる知見を得られると期待できます。

まとめ

近年、さまざまな業界で注目を集めているメタバースは、仮想空間そのものを指す言葉です。一般的には、仮想空間内をアバターで自由に動き回ることを指しています。

自由視点でCGモデルを表示できるため、没入感を楽しめる特徴があります。一方で、空間を構成する各3Dモデルの作成に莫大な手間やコストがかかる点はデメリットです。現実にある建物などを再現した3Dモデルの場合、更新するときに更なるコストも発生します。

メタバースと混同されやすい技術が、VRです。VRは仮想空間ではなく、技術のことを指しています。今後、従来とは異なるニーズが想定されるニューノーマルの世界では、メタバースとVRの違いを理解したうえで開発やマーケティングに活かすことが重要です。