ユーザーの関心が高まる「内装木質化」とは。効力と活用事例を紹介

日本は国土面積の半分以上を森林が占めている一方で、ほとんど活用しきれていない現状があります。山林問題のひとつとして、土地の多くは管理者および所有者が不明で、十分な手入れが行われないまま放置されていることが挙げられます。 森林および山林に関する問題の打開策として、政府主導で行われているのが建築物の内装木質化です。もちろん、内装木質化はユーザーにとっても多くのメリットがあります。 ここでは内装木質化が注目されている理由や期待できる効果を事例とともに紹介します。

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内装木質化が注目されている背景

世界的なSDGsの達成や脱炭素社会の実現に向けた動きをはじめ、あらゆる分野において環境問題が新しい局面を迎えています。たとえば木材に対する消費者の関心、利用への意欲の高まりも、SDGsなどへの取り組みが契機のひとつといえます。

木材利用への関心やアクションは、個人レベルの話に留まりません。日本政府も木材利用を推進しており、その一環として「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」の施行が挙げられます。

同法律の前身として平成22年に制定されていたのが、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」です。公共建築物の床面積のみで見ると、令和元年度の木造率は法制定時より5%程度増加しています。 

反対に木造率が低迷していた民間建築物においても木材利用を推進すべく、令和3年に建築物全般を対象とする法律へ改正されました。現状に合わせた法改正は、内装木質化をはじめ民間レベルでの木材利用への意欲を高める背景となっています。

内装木質化がもたらす主な4つの効果

内装木質化は社会的だけでなく利用者にも、多くのメリットをもたらします。

ここでは林野庁の資料に基づいて、内装木質化がもたらす効果を「心理的な効果」「身体的な効果」「安全面・衛生面の効果」「経済的・社会的な効果」の4つの視点に分けて紹介します。

心理的な効果

まず挙げられるのが、内装木質化による心理的な効果です。木材ならではのナチュラルな質感や香り、視覚情報などは、空間内で過ごすユーザーに心理的なメリットを与えてくれます。

リラックス効果が得られる

内装木質化による視覚的な効果の最たるものが、リラックス効果です。林野庁が行った調査では、各建築物の利用者や就労者など幅広い属性においてリラックス効果や癒しを実感したという声が多く寄せられました。

また、木材由来の香りも心身のリラックスに好ましい影響を与える要素のひとつです。

室内空間への愛着が湧く

リラックス効果とともに利用者の声で多かったのが、心地良さです。木材の香りや質感、ナチュラルな色合いなどは、多くの生き物にとって馴染み深いものであり、人間も例外ではありません。

心地良さは建築物の用途を問わず、多くの人が感じている効果のひとつです。内装木質化による心地良い空間の実現は、さまざまな建築物でユーザーに室内空間への愛着をもたせてくれます。

積極性を高められる

林野庁による調査では、主に事業系の建築物においてモチベーションや積極性を高められると実感した人の声が多い点も特徴的です。

リラックス効果は、一見すると作業の手を緩めてしまうのではと考える方も少なくないでしょう。しかし見方を変えると、リラックスできる空間で業務にあたることで、パフォーマンスを最大化できるとも考えられます。

身体的な効果

内装木質化にともなう心理的な効果の中には、身体的な効果によって引き起こされるものも含まれています。視覚情報に加えて、木材由来の香りや成分が人体にさまざまな効果を与えるためです。

免疫力向上を見込める

木材が発する香りの中には、リラックス効果や免疫力向上が期待できるものも存在します。

たとえば建材として代表的なスギの香りは唾液分泌を促し、ストレス軽減や血圧低下などが期待できると注目されています。そのほか、ヒノキも放つ香りが免疫細胞の活性化を促し、免疫力向上が見込める木材のひとつです。

疲労・ストレスを緩和につながる

前述のとおり、建材に使用されることの多い木材の中には、ストレス緩和につながる香りのものがあります。さらに木材に囲まれる環境は、疲労緩和も期待できます。

一般的に、精神的負担の多い作業を行うと多くの人はストレスを抱えるものです。しかし作業で心身ともに疲労している人物を木材の多い空間に移動させると、疲労やストレスなどの負担が軽減したというケースもあります。

快適感を得られる

木材の特徴のひとつに調湿機能があります。環境に合わせて湿気を吸収したり、放出したりする機能のことです。調湿機能によって過度な湿気や乾燥を防いでくれるため、室内環境の快適性が増します。

不快指数を軽減されるためには、室温だけではなく湿度の管理も重要です。木材を取り入れることで調湿されれば、夏場はもちろん乾燥しやすい冬場も快適な空間となります。

安全面・衛生面の効果

内装木質化は壁や天井、床、ドアなど、さまざまな部分が対象です。使う場所によっては安全性や衛生面の効果も期待できます。

転倒などによる障害発生を抑えられる

木材には適度な硬さ・滑りにくさもあり、床や家具、ドアなどに木材を利用すると快適に過ごせます。滑りにくい床は足腰への負担も軽減され、転倒による怪我や障害の発生を抑えられる点も大きなメリットです。

消臭・抗菌効果を得られる

木材には前述した調湿機能だけのほか、空気の浄化作用を期待できるのも特徴のひとつです。適度な湿度と、悪臭の元となる成分を吸着する効果により、快適な空間となります。

また、独特の香りや構造はダニを抑制することから、防虫目的で内装木質化を取り入れる施設もあるほどです。

経済的・社会的な効果

内装木質化はユーザーにとって多くのメリットをもたらすだけではなく、提供者や社会全体に経済的な効果も与えてくれます。世界各国で取り組まれているSDGsや脱炭素の観点からも、優秀な存在のひとつです。

建設時のCO₂排出量を抑制できる

木材を使用すると、ほかの建材を使用した場合に比べて、CO₂排出量を抑制できるといわれています。建設時に排出されるCO₂は製材時の機器や薬剤使用に発生するほか、燃料の燃焼や運搬時のエネルギー消費にかかるものも含まれます。

製材や施工時のCO₂排出量の抑制は、環境問題の観点からも重要です。さらに国内産の木材を使用すれば、運搬時に排出されるCO₂の量も抑制できます。

地域経済の活発化につながる

冒頭で解説したとおり、日本は国土面積の半分以上を森林が占めています。国産材を建築領域で活用することは、国内林業や木材産業の活性化につながるだけではなく、地域経済の活発化も期待できる取り組みです。

地方の自然と人里が共存する、いわゆる里山では多くの木材が活用されず山林に残っています。国産木材の需要が高まれば、里山などの地域経済を潤すこととなります。

内装木質化に関連する木材の活用事例

ここまで、内装木質化がもたらす効果を紹介しました。しかし、香りや視覚情報などによる人体の心身への効果に対して、懐疑的な方も多いのではないでしょうか。そこで、内装木質化に関連する実験や、実際の木材の活用事例を紹介します。

イトーキが自社サイトにて、複数の研究所や専門家と共同で行った実験結果を公表しています。実験テーマは、「オフィスにおける木製家具がワーカーに与える効果」の検証です。

オフィスの大型テーブルの天板部分を3種類用意して、どの素材が最も働きやすく感じるか調べました。

使用された素材は、次の3種類です。

・クリ無垢3mm単板

・木目調メラミン化粧板

・単色白メラミン化粧板 

視覚的には、クリ無垢と木目調メラミン化粧板は、いずれもナチュラルな木目デザインである点が共通しています。しかし18人の被験者で130日間実験した結果、「仕事への集中のしやすさ」「アイデアの出しやすさ」の両方でクリ無垢が最も高い数値となりました。

また、アンケートによる自覚の面でも唾液検査による生理的な反応でも、クリ無垢はストレス状態が低いという結果を出しています。

検査によっては木目調メラミン化粧板も多少の効果を表していることから、木材の質感だけではなく視覚的情報も大きく影響しているといえます。

エスウッド

エスウッドの代表的な事業は、国産ストランドボードの開発です。ストランドボードは木材のチップを原料としたボード状の建材で、間伐材など国産原料の活用だけではなく、家具などの廃材活用にもつながっています。

調湿性など木材が本来もつ特性を残しており、幅広いデザインに対応できるのが特徴です。また、令和3年、エスウッドは早稲田大学などと共同で滋賀県琵琶湖のヨシ(葦)を使用した「ヨシストランドボード」も開発しています。 

建材としてのメリットはもちろん、ヨシストランドボードはデザイン性の観点からもオフィスや店舗に採用しやすい製品です。幅広い用途が検討できることから、エスウッドの製品は内装木質化に大きく貢献しています。

乃村工藝社

2018年より乃村工藝社が取り組んでいるのが、「フェアウッド・国産材活用プロジェクト」です。フェアウッドとは、産地や出どころが明確な木材のことを指します。いわゆる木材のトレーサビリティで、次の点を重視しています。

・森林環境や地域社会に配慮しているか

・どこで伐採・加工されたか

・違法伐採をしていない合法性 

単に木材を取り入れるのではなく、近年はデザイナーが木材の出どころを重視する傾向です。内装木質化にフェアウッドを活用することで、新たな価値の創生や国産材の活用に貢献しています。

まとめ

内装木質化は、屋内にいながら自然を身近に感じられるメリットがあります。視覚的な効果がリラックスをもたらしてくれます。そのうえ国産材を使用することで、経済活発化も見込めるなど、内装木質化のメリットはさまざまです。

近年はナチュラルテイストの内装が高い人気を得ていることもあり、ますます内装木質化事業への注目が期待されます。