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視線調査とは「ユーザーの視線を可視化する」調査手法
視線調査とは、専用のデバイスを使用してユーザーの視線を分析手法のことです。アイトラッキングや視線推定技術とも呼ばれる手法で、カメラやセンサーで眼球の動きを読み取り、ユーザーの視線の動きを可視化します。
従来の行動調査では、被調査者が無意識に分析者の意図を汲み取った言動をしてしまうことがありますが、視線調査の場合、結果の操作は困難です。
視線調査では、複数の選択肢の中でどれを集中的に見ていたか、どのような流れで空間や対象を見たのかなど、ユーザーの無意識な眼球の動きを捉えて正確に分析できます。
視線調査に用いられているデバイス
視線調査を行うためのデバイスは、さまざまなタイプが開発されています。業界を問わず多岐に渡って活用されており、ユーザー個人が自らの体調を客観視するために提供されている商品も珍しくありません。ここでは代表的なデバイスを3種類紹介します。
アイマークレコーダ(ナックイメージテクノロジー)
アイマークレコーダEMRシリーズは、その名のとおり人の視線の動きを記録するためのデバイスです。装着者がどこを見ているのか視線の変化を可視化し、計測できます。
シリーズの特徴は人間工学や心理学、医学などの多用な分野で活用できるよう、複数種類のデバイスで展開されていることです。ここでは一例として「EMR-9」を解説します。
EMR-9はモバイル性をコンセプトに、小型軽量化に特化したタイプです。帽子や眼鏡に取り付けて使用します。自然な装着感でユーザーに負担をかけることなく利用できるうえ、太陽光の強い外光による影響も抑えてくれるため、屋外でも安定した計測が可能です。
JINS MEME(ジンズ)
JINS MEMEの最大の特徴は、企業や団体による研究ではなく個人ユーザーの日常的な使用を目的とした商品であることです。外観は通常の眼鏡と大差なく、ユーザーは装着することでセルフケアに役立つデータを取得できます。
鼻あて部分にBluetooth、バッテリー、6軸モーションセンサー、眼電位センサーなど、分析に必要な機器がすべて組み込まれたコンパクトな設計です。ユーザーはBluetooth経由でスマホに保存されるデータを参考に自分の心身の状態を知り、セルフケアを意識できます。
集中力が落ちたときや長時間悪い姿勢が続いたときなどは、アラートで知らせてくれる機能も魅力的です。
ToPolog(ジオクリエイツ)
ToPolog(トポログ)は、空間デザインの現場で多く活用されているSaaSです。設計検討VRや現地調査VRの映像と組み合わせて使用することで、現場にいるときと同等の状態で視線や脳波を実測または推定できます。
建築業界におけるVR活用は、クライアントにデザイン段階で疑似的な空間体験をしてもらうサービスの一環と誤解されることが少なくありません。実際の現場では、VR映像に分析用のデバイスを組み合わせることで設計のUI/UXを高められる効果が注目されています。
空間体験に対するクライアントの「居心地が良い・悪い」などの漠然とした感想を、ToPologを用いた調査で定量化し、デザインに反映させられます。前述したナックイメージテクノロジーやジンズなど、他社のデバイスで得たデータを活用できる(ユーザーの使用デバイスを制限しない)点もToPologの特徴です。
視線調査の活用事例
多くの企業が視線調査を活用する理由は、被調査者の本音を読み取れるためです。ユーザー意識を調査する代表的な手法といえばアンケートやインタビューが挙げられます。しかし、これらの手法では、ユーザー個人のインサイトを調べるうえで必ずしも正確な結果を得られるとは限りません。
たとえば、コーヒーメーカーが飲料について調査した場合、人によっては無意識にメーカーに好意的な回答をしたり、あえて真逆の回答をしたりする場合もあるでしょう。一方で、複数の商品を並べたうえで視線調査をするとユーザーがどの飲料をよく見ているか分析でき、個人の好みをデータとして明確に記録することができます。
視線の動きをデータや映像としてビジュアルで表現することで、ユーザーの行動心理を引き出せるのが視線調査のメリットです。
また、好き・嫌いなどの商品やサービスの好みを調査するだけではなく、UI/UXの向上にも役立てられます。一般的な事例として、Webサイトのユーザビリティ向上に視線調査を活用したケースが挙げられます。
誘導したいページにユーザーを誘導できなかったり、売上や資料請求につながらなかったりする場合、原因のひとつとして考えられるのは、ボタンの位置やデザイン的な利便性です。
どこにボタンやリンクを配置すれば改善されるのか分からないときは、マウスの動きやクリックした場所を参考にヒートマップを生成してくれるツールが役立ちます。
しかし、前述のアンケートやインタビューと同じく、マウスの動きやクリックした場所が必ずしもユーザーの本音を反映しているとは限りません。ツールはあくまでマウスの動きを追っているに過ぎず、ユーザーがページのどの部分を集中的に見ているかまでは反映されていないためです。
マウスの動きからヒートマップを生成してくれるツールに加えて、視線調査を活用すれば、よりWebサイトのUI/UXを向上させることができます。たとえば眼鏡タイプのデバイスでユーザーがページを閲覧しているときの視線の動きを把握できれば、ボタンやリンクの適切な配置が可能になります。
視線調査がユーザビリティ向上に役立つ現場は、Web業界だけではありません。ほかにも、下記のように小売業や建設業などで役立つケースもあります。
商品陳列の最適化
自動販売機では、ユーザーの注目が集まりやすい場所に一押し商品を配置する、という話が広く知られています。店舗経営でも視線の動きを意識した商品陳列の技術は活かされています。
レシートを見ればユーザーが実際に購入に至った商品を知ることはできますが、ニーズのすべてを叶えているとは限らないでしょう。売上情報だけでは、予算や荷物量など、さまざまな制限で興味はありつつも購入を逃した商品や、そもそも興味を引かれなかった商品の違いまでは読み取れません。
視線調査を活用すると、ユーザーの購買行動を購入前の動きも含めて可視化できます。陳列した商品の見られ方や選ばれ方をより正確に把握でき、商品陳列棚の視認性を考慮した改善が可能です。
最適な棚割りなど配置の問題だけではなく、各商品のパッケージ課題を洗い出す方法としても活用できます。ユーザー行動を反映させた売り場作りを内装段階から行うために、現在では小売りの設計関係者からの需要も高まっています。
空間デザイン
空間デザインにおいても、ユーザーの視線の動きは重視すべきポイントのひとつです。商品陳列棚の商品の並べ方など販促活動はもちろん、店舗設計など建築分野でも、視線調査のデータを応用できます。
「どこを」「何を」「どの程度」見ていたのか、ユーザーの「見る」行動のプロセスと理由を可視化できれば、居心地の良い空間作りに役立ちます。
従来の空間デザインでもユーザビリティは意識されてきましたが、UI/UXという概念は漠然としたものに過ぎませんでした。現場ではクライアントや設計者、施工担当者など複数の人間が関わることも影響して、適切な意思決定が行われないケースもありました。
そこで視線調査を導入して、ユーザー体験を定量化することで、UI/UXの改善点を明確に洗い出すことが求められています。視線調査を空間デザインに活用する効果については、以下の記事で解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
空間デザインにアイトラッキングリサーチが必要な理由と活用方法を紹介
視線調査の精度を高めるには脳波分析と併用する
厳密にいうと、視線調査だけでは空間デザインのUI/UXを向上させることは困難です。たとえば、サインや家具は存在が明確なため視線調査で分析できますが、天井の高さやテクスチャなどは、視線の動きだけでは容易に把握できません。
ユーザーが言語化できない些細なレベルで「この天井は圧迫感がある」と感じても、視線調査ではただ壁を見つめているだけのデータが残ります。視線調査だけでは拾えない部分を設計に落とし込むためには、脳波分析が必要です。
脳波分析も視線調査と同じく、デバイスを装着したユーザーの言語化できない心身の変化を定量化できる強みがあります。たとえば壁紙の質感や色を変えることで、よりリラックスできる空間はどちらかなど、設計段階では分からないセレンディピティを把握できるようになります。
セレンピディティとは、自分が想像しなかったことが起こる偶然や奇跡を指す言葉です。完成した施設をいざ利用してみると、設計段階では意図していなかった部分にリラックス効果を感じたり、利便性を見出したりすることは多いものです。
空間デザインにおいては、セレンピディティをいかに意図して作るかが高い顧客満足度につながるといっても過言ではありません。設計段階で視線調査だけではなく脳波分析も取り入れれば、無理のないUI/UX改善およびセレンピディティにつながります。
視線調査と脳波分析の組み合わせの効果については、下記のページで詳述しています。こちらもぜひご覧ください。
VRにも使われている「アイトラッキング」の特徴と脳波分析との関連性とは
まとめ
視線調査は、ユーザーの興味関心の有無に加えて対象を見るまでの視線の動きや、特定の対象を見続ける時間も定量化できるのがメリットです。アンケートやインタビューでは拾いきれないユーザーの深層心理に隠れたニーズも、無意識で動かす視線から誤魔化しなく取得できます。
設計分野でも、視線調査にもとづいたUI/UXの向上が注目されつつあります。ユーザーが心身ともに使いやすさを感じる空間を設計するためには、言語化の難しい部分を定量化できる視線調査・脳波調査を用いた分析が欠かせません。
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