脳波調査を行う意義とは?脳波調査が活用されている分野を紹介

商品やサービスの開発において、脳波調査が重要な役割を担うことがあります。身近な例を挙げると、安眠グッズやアプリの開発段階で、使用中の被調査者の脳波を参考にして効果を評価するケースなどです。 脳波調査にもとづいたトレーニング法や休息法の普及といった医療・運動の分野ではもちろん、近年は空間デザインをはじめとした設計分野でも脳波調査が活用されつつあります。 本記事では、脳波調査がどのような分野で役立っているのか、設計分野における具体的な事例とともに紹介します。

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脳波調査の概要

脳波とは、脳内で発生する情報伝達を行う電気信号の過程で生じる、電位変化を記録したものです。外部からの刺激に反応して情報伝達を行う、脳神経細胞の一連の流れは活動電位とも呼ばれ、電位差には一定の周期性があります。

電気信号によって送られる情報に応じて、大脳の働きや感情の動きによって電位が変化します。この信号を計測して記録することで、脳波として分析できるようになります。

膨大な情報量から体験の違いを判別できる

脳波は、大脳の働きや感情の動きに応じて周波数が変化します。別の分析手段として心拍や発汗を調査する方法があります。驚きやストレスなど大きな感情の変化は計測できますが、本、映画、音楽などを体験したときの微細な変化は計測できません。

脳波の場合、それぞれの体験で脳の刺激を受ける部分が異なるため、本や映画など体験に応じて波形にも差が生じます。ユーザーがどんな体験をしているのか、データから区別することができるのが脳波の特徴です。

このように心拍や発汗では測れない領域も可視化できる点から、脳波が感情の変化だけではなく、身体の動きなど多くの情報を持っていることが分かります。

複雑な波形の解析にはAIが必要とされる

膨大な情報をもつ脳波は、さまざまな分析に役立つ一方で、解析そのものが複雑かつ困難という問題がありました。解析結果が有益であると認識されつつも浸透されてこなかった背景には、脳波の解析難易度の高さがあります。

脳波は信号そのものが非常に小さく、波形の変化も複雑です。脳波調査を研究や商品・サービスの開発に活用する場合、まずは脳波を可視化できる解析技術が必要でした。

そこで活用されているのが、AIによる脳波解析技術の導入です。これにより、微細な心理状態における脳波パターンも蓄積可能となった結果、脳波データの蓄積量が増えるほど被調査者の状態を詳細に把握できるようになりました。

脳波調査を行う際に用いるデバイスの特徴

AIを活用した脳波解析技術の発展により、脳波調査はデバイスを装着するだけで手軽に行えるまでに普及しました。デバイスは複数の電極を頭部に取り付ける従来の方法とは異なり、誰でも容易に装着できるもので、なおかつリアルタイムで計測できます。

現在は、脳波計から取得した感性を分析可能な簡易型の評価キットも登場したため、ヘッドギアとiPadなどの操作機器さえあれば、場所を選ばず調査が可能です。測定した睡眠時の脳波をAIで解析し、睡眠改善に活用するなど、ユーザー個人が脳波調査を手軽に利用できるデバイスも販売されています。

脳波調査が応用されている分野

脳波調査は医療などの研究分野から個人利用まで、幅広く利用されています。膨大なデータを取得できる脳波だからこそ、さまざまな用途で応用可能です。

ここでは脳波調査が応用されている代表的な3つの分野を紹介します。

ニューロフィードバック

ニューロフィードバックとは、脳波が望ましい波形となったときに音と映像でフィードバックすることで脳を自律的に学習させるトレーニング方法です。脳波のフィードバックトレーニングによって猫のてんかん発作を抑えられる効果が発見されたことから、現代では主に医療分野で注目されています。

てんかん、うつ病などの症状改善を目的とした心理療法の場で取り入れられたり、音楽やスポーツのパフォーマンス向上に活用されたりしています。

ニューロマーケティング・リサーチ

ニューロマーケティング・リサーチは、脳波の変化で人の行動原理を明らかにし、商品開発や広告宣伝などマーケティング活動に応用する方法です。

これまでユーザーの行動原理を知る方法は、アンケートやインタビューが一般的でした。手軽に実施できる一方で、質問内容や実施方法によっては取り繕った回答が混じることもあり、精度が高いとはいえません。

しかし、脳波調査を応用したニューロマーケティング・リサーチなら、従来のリサーチ方法では捉えきれず、言語化が困難であった印象や感情をデータとして蓄積できます。

日本最大級のマーケティング・リサーチ企業であるマクロミル社も、アンケートやインタビューによる従来のリサーチに限界を感じていた企業のうちの一社です。

近年、脳波計が小型化して手軽に利用できるレベルにまで進化・普及したことを機に、本格的にニューロマーケティング・リサーチの活用を行っています。

たとえば、他人への印象が出会ったときの数秒で決まる「適応性無意識」に着目して、異性に好印象を与えるカラーコンタクトレンズの調査において、脳波調査を活用しています。

ブレイン・マシン・インターフェース

ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)とは、人の脳と機械を直接的につなぐ技術のことです。人の意思をそのまま機械に伝えられるため、考えただけで機械を操作することや、思ったことをキーボードやマイクを使用することなく入力することができるようになります。

ブレイン・マシン・インターフェースは、以下の2種類に分けられます。

侵襲式

体内に電極を埋め込むことで、機械操作や思考の出力を可能とする方法が侵襲式です。電極は硬膜下などに設置するか、脳に直接埋め込みます。

ニューラリンク社は、すでに2020年8月にプロトタイプ「リンク0.9」を埋め込み型デバイスとして発表しています。更に2021年4月には、実際に「N1リンク」を埋め込まれたサルが、思考だけでゲームをプレイする様子が公開されています。

非侵襲式

非侵襲式は、装着型のデバイスを介して脳波を計測することで、機械の操作を可能とする方法です。侵襲式のように体内に埋め込む必要がなく、自由にデバイスを脱着できる手軽さが特徴です。しかし、頭蓋骨などが伝達情報を歪めやすいデメリットもあります。

非侵襲式のブレイン・マシン・インターフェースに関する研究で注目を集めているのが、メタ社(旧フェイスブック)です。脳波をリアルタイムで計測・反映させることで、VRデバイスの操作を可能とする研究が進めています。

当初計画していた早期実現化は断念したと発表しつつも、研究自体を中断したわけではないため、将来的により高精度な「脳波で操作できるVRデバイス」の登場が期待されます。

脳波調査はVRと組み合わせることで幅が広がる

脳波調査を単独で行うだけでも十分活用することはできますが、更に応用を利かせたい場合、VRとの組み合わせがおすすめです。VRのリアリティある映像を取り入れることで、リアルな購買体験を提供できます。

たとえば、仮想空間上に実店舗と同様の内装を再現して、商品サンプルを体験してもらう方法などです。現実世界に近い環境で購買体験してもらうことで質の高い商品やサービスの提供に向けた改善につながります。また、提供タイミングや接客手順の学習をはじめとした社員研修にも役立てられます。

空間デザインの分野でも、模型を作成する時間を省略できる分、商品開発にかかる一部のプロセスの簡略化が期待できます。

空間デザインの現場で脳波調査が役立つ理由は、ユーザーが自身の置かれた空間の中で生じる心理的・生理的な変化を可視化できるためです。たとえばサインや家具は存在が明確なため、脳波を測定しなくとも存在を認識できていることが分かります。視認性は視線調査だけでも判断できるため、脳波調査まで行う必要はありません。

一方で、天井の高さやテクスチャなどは、視線調査だけでは定量化が困難です。視線調査では、あくまで天井や壁を見ている、または見ていないことしか判別できないため、ユーザーにどのような感情が生まれているのかを判断できません。

そこで、視線調査に並行して脳波調査を行うと、天井を見たときにストレスがかかっている、特定の部屋ではリラックスできているなど、被調査者本人すら自覚していない心理的変化を明確化できます。

ここでは、具体例として内装デザインと店舗UIのふたつを挙げて解説します。

内装デザインの最適化

施工に入る前に、建物の完成予想をVRでクライアントに体験してもらうサービスは設計事務所やハウスメーカーで採用され始めています。VRに脳波調査を加えると、言語化し難いユーザーの不満点を洗い出せるため、より顧客満足度の高い内装デザインに仕上がります。

たとえば天井の色がひとつ異なるだけで、人に与える印象は大きく変化するものです。白色にするか茶色にするか、VRの中なら容易に体験してもらえます。脳波調査で感情の動きを定量化できれば、どちらがリラックスできる空間か明確にできます。

心身ともに居心地の良さを感じられる最適な空間デザインが実現可能です。

店舗UIの改善

既存店舗のUIを改善する場合も、脳波調査にVRを組み合わせた分析方法が効果的です。まずは現地調査で実際の店舗のデータを取得して、VRに落とし込みます。完成したVRの中で、改善ポイントを模索することで、模型を作成することなく最適な店舗デザインに仕上げられます。

どの部分を残すか、どこをどのように変更するかを検討するとき、デザイン案を複数作成してVRに落とし込めば、よりリアルな環境下でのABテストが可能です。

複数パターンを体感しながらスタッフや来店客の目線で店舗デザインを評価でき、より精度の高いUI改善につながります。

まとめ 

脳波調査は、医療分野のように脳波の変化そのものをデータとして活用されることもあれば、機器の操作など新たな商品やサービスの開発に活用されることもあります。設計分野でもVR技術と組み合わせることでUIを考慮した空間デザインを行うことができます。

脳波調査だけでもユーザビリティに配慮した空間デザインは可能ですが、VRと組み合わせた分析を行えば、よりUI/UXの向上が期待できます。

VRを取り入れた脳波調査の活用をご検討の方は、ぜひ弊社にご相談ください。アイトラッキングを組み合わせた、より精度の高い分析も可能です。