建築分野に脳波分析を用いる意義とは。ユーザー視点の設計への活用方法を紹介

現在はユーザーニーズが細分化されており、空間体験も同様と考えます。中でも建物内で過ごす人の『快適性』を追求するためには「建物内で過ごす人の視点」に近づくことが必要不可欠です。 すなわちユーザー視点といえば、近年は設計段階でVR映像による空間の疑似体験を利用する方法があげられます。しかし、単純にVR映像を体験してもらうだけでは、快適性や違和感の言語化・定量化が難しいです 。 そこで画期的な手法として注目されているのが、脳波分析です。本記事では、建築領域における脳波分析の重要性や影響力について解説します。

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建築領域において脳波分析が注目を集める理由

VR機器による脳波分析が、建築領域において注目を集めている最大の理由が、UI/UXになり得ないものを含んでいることです。VRは、建物を自立するための柱や壁などの部材も立体映像で表示することができます。

リアルな映像で疑似体験したときの脳波を測定すると、どのような設計や部材がユーザー(クライアント)に影響を与えるのかが定量化されます。HCD※の観点からすると間取りや家具の配置だけではなく、部材も含めたユーザーへの影響を考慮する必要があるため、脳波分析による明確なデータが不可欠です。

※HCDとは、人間中心設計プロセス(人間中心設計サイクル)の略で、「人間(ユーザー)を中心としたものづくり」を指す言葉です。ユーザーやタスク、環境を十分に理解したうえでものづくりを行うことを是としており、UI/UXもHCDの一部といえます。

たとえば、VR映像の中でユーザーが空間にストレスを感じた場合、どの部分で脳波に変化があったのかを測ることで、HCDを考慮した改善が可能です。天窓を開けたり、扉の高さを変更したりと、部材ひとつひとつに意識を向けた改善を施すと、UI/UXひいてはHCDに基づいたユーザーフレンドリーな設計になり得ます。

アイトラッキング(視線解析)の対応領域

VRを活用した測定方法のひとつに、アイトラッキングがあげられます。ユーザーの視線の動きを測定することで製品開発などに活かす方法ですが、建築領域において、アイトラッキングだけでは「空間を見る」ことに関して定義しづらいという声もあります。

たとえば、ユーザーに真っ白な壁のある映像を見てもらった場合、壁に傷があったり木の節があったりする程度の違いは認識してもらえます。一方で、傷も何もない真っ白な壁に四方を囲まれた場合、空間全体を見ている状態では正確かつ自然な視線の動きを測ることができません。

結果、「空間を見る」という単純な動作であっても、アイトラッキングだけでは正確な計測は困難となります。

エピソード記憶の重要性

ユーザー目線での建築設計を行うとき、快適性を追求するうえで重視したいのがエピソード記憶にもとづく空間設計です。

エピソード記憶とは、経験や事象に関連して情報を記憶することを指します。いつどこで起こったことなのかを、ストーリー仕立てで思い出せることが特徴です。近年はエピソード記憶の仕組みを活用した幼児教育も増加しつつあり、広く認識されるようになりました。

エピソード記憶を建築領域に活用すると、ユーザーの空間経路や視認・行動の順序などを派生的に解明できます。たとえば同じフードコートでも、高校生グループが利用した場合、ファミリーが利用した場合では、視線の動きや一連の行動は大きくことなるでしょう。

それぞれのユーザー層のエピソード記憶を解析すると、設計者側が想定するパターンとは異なる行動の発見につながります。更に分析したデータを設計へ取り入れることで、利便性の向上のほか、想定外の事故を防止する効果が期待できます。

脳波分析はユーザーの空間感性を数値化できる

脳波分析の導入により、アイトラッキングだけでは困難な部分のデータを補足し、エピソード記憶に基づいたユーザーごとの行動の違いを設計に反映させられるようになります。視線の動きだけでは測定できないユーザーの感情の部分を取り出して、空間評価に活用できるためです。

たとえば、壁紙の選定でABテストを行った場合、VR映像を見てもらったユーザーの回答が「なんとなく」という漠然としたものであったり、「分からない」と言われたりすることもあるのではないでしょうか。

そのような場合に、「Aの壁紙とBの壁紙のどちらでユーザーがリラックスしていたか」を定量化できるのが脳波分析です。

また、脳波と本人が自覚している印象は必ずしも同一とは限らず、ユーザーが選んだ壁紙に対して脳波では「まったくリラックスできない」と感じている可能性もあります。脳波分析を行うことで言語化できない部分や、主観的な選択とは異なる(心身の深いところで感じている)空間評価を明確化できます。

壁紙のほかにも、家具の配置や店舗内のPOP、商品の陳列やマネキンの配置など、さまざまな空間設計の要素をシミュレーション可能です。アイトラッキングデータを元に心理学的に興味関心をある程度推測することもできますが、より正確なデータを取得したいのであれば、やはり脳波分析が望ましいといえます。

印象評価

印象評価とは、空間に対して感じる「爽やか」「美しい」といったプラスの気持ちです。

人の選択には『意図的』『無意識』どちらにしろ、何らかの経験による固定観念や先入観が影響しているものです。前述のとおり、脳波との齟齬が生まれることもあれば、心と体(脳)の印象が合致することもあります。

心身が受け取るイメージの齟齬の有無によらず、脳波分析によって設計に対する印象評価を行えます。

ユーザーにVR映像を見せたとき、ものや環境に対して漠然とした印象のみで「なんとなく」良いと評価することがあります。見た目が気に入ったり、使いやすそうな印象を覚えたりするなど、理由はさまざまです。

脳波分析と組み合わせて印象評価を探れば、心にも体にも好印象の良いものを設計するヒントを得られるでしょう。

位相空間

空間設計において印象評価と同じく重視すべきポイントが、位相空間の解明です。位相空間とは、空間内のある領域を指す言葉です。位相を解明することは、空間の分割位置を理解することでもあります。位相空間は物体の位置と運動量を座標としており、VR映像に奥行きや移動など没入感と深く関わっています。

印象評価まで取り組んでいる企業が多い中、更に一歩踏み込んで位相空間の解明まで行っているところは、独自性が高い企業です。弊社サービス「ToPolog(トポログ)」の名前も、位相空間(Topological Space)が元となっています。

脳波分析が建築業界に与える影響力

ライフスタイルの多様化およびニーズの細分化が進む現代において、建築領域もよりユーザーフレンドリーな設計や取り組みが求められるでしょう。これまで言語化が困難だった分野まで定量化できる脳波分析は、今後の建築業界に多大な影響を与えます。

建築領域に関するVR映像および脳波分析の活用例や影響については、下記の記事にて詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。

建築設計のVR活用。UI/UXデザインを考慮したアイトラッキングや脳波計測とは

インテリア空間における建材の割合

同じ間取りの建物であっても、空間を占める色彩の分量によって印象は大きく変化します。建物の設計は、色彩をもっている建材を組み合わせて行うため、全体のカラーバランスだけではなく各色彩の分量も重要です。

たとえば柱や天井、床などの木視率(もくしりつ)によって、人の脈拍数は変動します。木視率は、室内の木材が見える割合を表すものです。木視率が高ければ室内の表面の多くを木材が占めている状態であり、リラックス効果によるパフォーマンス向上につながります。

森林浴にリラックス効果があるといわれる所以は、樹木に含まれるフィトンチッドという物質によるものです。フィトンチッドは木材に加工された後も残っており、木に囲まれた部屋の中で呼吸するだけでリラックス効果が期待できます。

天井、床、壁材をすべて木材で仕上げた場合、木視率はおよそ60%と高くなりますが、床材と腰壁材のみに留めた場合はわずか45%です。脳波分析は、VR映像で木視率の異なる空間をユーザーに体験してもらうことで、明確な数値による最適な木材の割合を見つけられます。

景観協議

景観協議会とは、景観計画区域における良好な環境の形成を図るために、適切な建設物の高さや外観などについて話し合う場です。協議項目も景観法に基づいた景観計画や景観条例によって厳密に定められています。(細かな内容は景観行政団体・地方自治体により異なります)

歴史的建造物や地域の観光価値を守る目的で、建物の設計時に景観との調和を重視する法律や条例が存在する国は少なくありません。日本の場合、京都のように景観条例が設けられている地域において、事前に景観協議会が開かれます。

古都としての風景が観光価値の一部となっている京都の例をあげます。京都市の街中に超高層の建物を建設したい場合、景観協議会が開かれます。専門家によって「建物を建てて良いのか、良くないか」から話し合いを行います。最終的に建築可能と判断された場合は、どのようなものであれば建てて良いかを決定します。

建築物の外観を決める要素のひとつは、塗装や建材そのものの色です。VR映像に脳波分析を加えることで、街中の景観に溶け込むだけではなく、人々の視界に入ったときに悪目立ちしない自然な建物のデザインを検討することができます。

まとめ 

今後の建築領域は、表面的な印象のみを考慮した設計よりも、定量化したデータに基づいた設計が求められます。「きれい」「使いやすい」など、これまで言語化が難しかった印象評価を明確な数値として示してくれるのが、VR映像を活用した脳波分析です。

脳波レベルでリラックスや使い勝手の良さを追求した、真にユーザーフレンドリーなものづくりを実現するために、ぜひ「ToPolog」をご活用ください。