名古屋市教育委員会事務局・新しい学校づくり推進課+名古屋市立明豊中学校
「リラックスできる職員室」 の計測と検討

検証内容
背景
名古屋市教育委員会事務局・新しい学校づくり推進課のプロジェクトとして、名古屋市立明豊中学校の職員室にて、生体データ計測とVR開発をジオクリエイツが担当する体制にて実施しました。
場所:名古屋市立明豊中学校(愛知県名古屋市南区豊2丁目39−3) 職員室
課題
日頃から多忙な先生方の拠点である職員室において、まず「リラックスできる空間にしたい」と課題が提示されました。加えて、家具等の追加やレイアウト変更等も検討も進めているとのことから「今後の改善施策に活かせるように現状の職員室の状態を把握したい」との課題も挙がりました。
仮説・立案
- テスト期間の前後で、違いがあるのではないか?
(追加でモノを設置する等ではなく、純粋にアクティビティの違いによるABテスト)
- 職員室空間の席ごとで、違いがあるのではないか?
(非常に様々なモノが溢れている中でも、現地の各席を調査すると主観的な違いは感じられることから)
- 職員室空間の要素ごとで、違いがあるのではないか?
(要素として、緑視率:視界内の緑の割合、木視率:視界内の木材の割合、窓率:視界内の窓の割合、等への着眼から)
検証方法
■現地実験
明豊中学校職員室で、教員等の皆様約30名に、テスト期間/テスト期間後の【Before】【After 】をそれぞれ1週間で、固定席での比較。
日中の現地職員室での活動をリストバンドの心拍関連の生体データ計測にて検証(それぞれ職員室に在室する任意の数時間程度の比較的長時間の計測)。
【Before】テスト期間中1週間の職員室での体験
【After 】 テスト期間後1週間の職員室での体験(うち2日はイベント実施)

■VR実験
明豊中学校職員室のBIM・デジタルツインのVRモデルをレイアウト変更案を含めて検討・作成し、実験対象とする候補案を選定。
その後、一般被験者4名に、現状レイアウト/現状レイアウトで木質化したもの/変更したレイアウトで木質化したもの【①】【②】【③】を、それぞれ4種の席から見える風景の印象評価を簡易脳波計による脳波の生体データ計測にて検証(VR実験環境のため身体負荷を考慮した比較的短時間の計測)。
【①】現状レイアウトの職員室での体験
【②】現状レイアウトで木質化した職員室での体験
【③】変更したレイアウトで木質化した職員室での体験


結果・考察
現地実験(期間別)
テスト期間の前後で比較したところ、集中度や活動量は概ね同程度の値でしたが、特にリラックス度が、仮説に反して、テスト期間後の方が、下がっていることが分かりました(下図左)。この理由として、テスト実施時よりも、テスト採点時の方が、緊張が高まる傾向にあることが示唆されました。
テスト期間後の内訳を詳細に確認すると、テスト採点日が特に負荷が大きく、イベントが行われている日には軽減されている傾向も分かりました(下図右)。

現地実験(空間別)
職員室内の席を様々なグループに分けて分析したところ、部屋の内側でB:壁までの視線が近い席の方が、リラックスも集中も概ね高い結果となりました。 ブース席の様な囲まれた印象を与えていることが考えられます。一方で、A:壁まで視線が遠い全体が広く見渡せる席の方は、活動量が多くなりました。
このように席ごとの特徴を様々に把握し、改善施策やレイアウト検討が行われました。

VR実験(空間別)
現地を再現したデジタルツインの3DモデルによるVRでレイアウト検討を行い、 現状レイアウト/現状レイアウトで木質化したもの/変更したレイアウトで木質化したもの、3種で、VR実験を行いました。その結果、現状案とレイアウトが同じ場合、木質化前後で同様なメリハリがあることが確認できました。また、レイアウト変更すると比較的各席が平均的なリラックス度や集中度になることが確認出来ました。更に、これらの中でも、緑視率や木視率や空率などの要素が影響することが示唆されました。

このような結果から、ABW(アクティビティベースドワーキング)の可能性が検討され、フリーアドレス化が実施されることとなりました。また、家具の改修や追加による内装木質化や観葉植物の配置によるバイオフィリックデザインの推進も検討されることとなりました。
ご担当者の声
名古屋市教育委員会事務局・新しい学校づくり推進課 中本 圭亮 様
名古屋市立明豊中学校 梶田 勉 校長先生
明豊中学校では、働き方改革に向けて、「同僚性を深化させる取組」として、職員室環境の改善に取り組んできました。その中で、今回のように、現地計測による現状分析やVR実験結果の確認をすることができたことは、大変有意義なものになりました。さらに、プロジェクトのまとめとして実施した報告会には、多数の教職員が参加し、その中でVR体験も行ったことで、今後の新しい職員室や働き方のイメージの醸成が図れました。
計測結果は大変興味深く、フリーアドレス化などの具体的な施策につなげていく方針です。
まとめ
- テスト期間前後で、リラックス度や集中度等が、異なることが確認できました。
- 職員室をリラックスできる空間にするために、どのような要素によってリラックスがもたらされているかの傾向を把握することができました。
- 職員室の空間が与える影響の傾向を把握した上で、家具変更・レイアウト検討や、フリーアドレス化が推進されることとなりました。
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